1989年(平成元年)12月8日、NECホームエレクトロニクスは、好評を博していた家庭用ゲーム機「PCエンジン」のラインナップを拡充し、新型機である「PCエンジン コアグラフィックス」および「PCエンジン スーパーグラフィックス」の2機種を同時に発売しました。当時は任天堂のファミリーコンピュータが市場を席巻し、セガ・エンタープライゼス(現セガ)がメガドライブを展開するなど、次世代のシェア争いが激化し始めていた時期であり、この日の新機種投入は年末商戦における重要な戦略でした。
「PCエンジン コアグラフィックス」は、1987年に発売された初代PCエンジンのマイナーチェンジモデルとして登場しました。初代機は白色のボディにRF出力(アンテナ線への接続)を採用していましたが、コアグラフィックスではボディカラーを精悍なダークグレーとブルーの配色に変更しています。また、当時のテレビ環境の変化に合わせ、映像・音声出力をRF端子からAV端子(コンポジット映像出力)へと変更したことが最大の特徴でした。これにより、ユーザーはより手軽に、かつクリアな画質でゲームを楽しめるようになり、以降のPCエンジンシリーズのスタンダードな仕様として定着しました。定価は24,800円でした。
一方、同時に発売された「PCエンジン スーパーグラフィックス」は、従来のPCエンジンのスペックを大幅に強化した上位モデルとして注目を集めました。画像処理チップを2基搭載することでスプライトや背景の表示能力を2倍に引き上げ、搭載メモリも増強されています。自動車のエンジンを模したような大型で重厚なボディデザインも特徴的で、当時のメーカーの技術的な野心を感じさせる一台でした。定価は39,800円と高額であり、専用ソフトとして『バトルエース』や『大魔界村』などが発売されましたが、専用タイトルの数は限定的なものにとどまりました。
この2機種の発売は、単なるバリエーションの追加にとどまらず、後のPCエンジンDuoシリーズや、CD-ROM²システムの普及へと続く、NECホームエレクトロニクスのハードウェア戦略の過渡期を象徴する出来事でした。特にコアグラフィックスは、CD-ROM²システムとの接続親和性も高く、多くのユーザーに愛用されるハードウェアとなりました。
