【独自取材】移動手段から地域の交流拠点へ、近江鉄道が目指す鉄道の在り方

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 滋賀県で最も古い歴史を持つ私鉄の近江鉄道株式会社は、今年で130周年を迎えます。同社が運行する59.5キロメートルの鉄道路線は、1967年度の年間利用者が約1126万人に上りましたが、自動車の普及や沿線人口の減少により、2002年度には369万人まで落ち込み、構造的な赤字に直面してきました。2024年度の単体決算において、鉄道事業は31年ぶりに赤字が解消されました。同社は取材の中でこの赤字解消について、「公有民営方式による上下分離への移行による沿線自治体さまのご尽力の賜物であり、弊社の努力だけではない」と語っています。

 新しい体制への移行に伴い、利用者の利便性を大きく向上させるための新しい取り組みが始まっており、その代表的な例が、長年の課題でありながら多額の費用が壁となって見送られてきた交通系ICカード「ICOCA」の導入です。導入後の様子についてタッチ決済の便利さを歓迎し「やっと使えるようになった」とすぐに活用する人がいる一方で、使い慣れない高齢者などからは、乗り降りの方法について戸惑いの声も寄せられているとのことです。これは新しい技術が社会に浸透する過程でよく見られる現象であり、鉄道会社や行政による継続的なサポートが必要であることを示しています。さらに、スマートフォンやパソコンから定期券が購入できるWeb定期券サービス「ICONPASS」の運用も始まりました。取材の中で同社は、「窓口に並ばずに手元のスマートフォンでスムーズに決済できるため、より多くの方々に鉄道を利用してもらうことを期待している」と述べています。

 さまざまな施策の中で、社会的な影響の大きさから特に注目されるのが、子ども向けの交通系ICカードを使った「こども運賃1乗車10円」の導入です。この取り組みは、期間限定キャンペーンなどではなく、これからの運賃の仕組みとしてずっと続く点に大きな特徴があります。これほど大幅に運賃を下げる主な目的は、目先の売り上げを増やすことではありません。子どもの頃から鉄道に触れる機会を増やして将来的な愛着を育むとともに、沿線地域が子育てしやすい街であることを外に向けてアピールし、住む人を増やそうという都市づくりの意味も込められています。実際に近江鉄道線は近江八幡駅や彦根駅などでJR線に接続しており、乗り継ぎで行けば京都や大阪などにもアクセスしやすい路線となっています。

 一方で、毎日の電車を時間通りに安全に走らせるためには、利用者の目には見えないところで高い専門知識と継続的な労力が必要です。取材の中では、「毎日当たり前のように定時運行を守り続けることこそが、実は最も困難で努力が必要」なものであると明かしています。少子高齢化で働く人の減少が大きな課題となる中、運転士の確保や育成はもちろん、過酷な現場の作業が安全な運行を支えています。資料によれば、これらの技術的な課題に対しては、西武グループの鉄道会社間で知識や技術を共有し、従業員の能力向上と組織全体の安全体制の強化が続けられています。もし近江鉄道線を廃止し、すべてを路線バスなどの代替交通に切り替えた場合、社会に与える影響は深刻です。近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会によるクロスセクター効果分析によれば、代替バスへの移行は主要な道路で慢性的な渋滞を引き起こし、通勤や通学の時間が長くなるだけでなく、車を運転できない人たちが病院や学校へ行きづらくなったり、環境への負荷が増えたりするとされています。こうした地域社会へのマイナスの影響をお金に換算すると、地域全体で年間約12.4億円もの負担が増えると推計されています。近江鉄道線を存続する方が、近江鉄道線を廃止して代替施策を実施するよりも効果的であることが示されました。

 近江鉄道線の利用者は約66.6パーセント(2019年度実績)は、通勤や通学のために定期的に利用する人たちです。新型コロナウイルスの感染拡大を経て、全国の地方鉄道が利用者の減少に苦しむ中、近江鉄道線の現在の利用実績はコロナ禍前の水準へと確実に回復しており、地域社会と鉄道会社の間に強い信頼関係が築かれていることの証拠と言えます。地方で鉄道を維持していくことは日本全体が直面する非常に難しい課題ですが、同社は、地域に欠かせない財産として鉄道を残すことを第一の目的とし、新しい仕組みの下で将来にわたって運行を続けるための革新的な取り組みを続けていく方針を明らかにしています。

近江鉄道様から読者の皆様へ

近江鉄道は、創業以来130年、滋賀県の皆様の「足」として地域とともに歩んでまいりました。
時代とと もに交通手段は多様化していますが、私たちは単なる移動手段を提供するだけでなく、地域の皆様の生活 を支え、文化や観光を通じて滋賀の魅力を発信する役割を担っていると考えています。地方の公共交通を 取り巻く環境は決して楽ではありませんが、西武グループの一員として、また滋賀県を代表する交通事業 者として、地域に必要とされる企業であり続けるために、日々努力を重ねています。今後も、地域の皆 様、そして滋賀を訪れてくださる皆様に愛される近江鉄道であるために、新しい取り組みにも積極的にチ ャレンジしてまいります。
ぜひ、滋賀にお越しの際は近江鉄道をご利用いただき、琵琶湖をはじめとする滋賀の豊かな自然や文化に 触れていただければ幸いです。