
ウイルス抵抗性遺伝子をもつナス(左)、ウイルス感受性ナス(中央)、ウイルスDNA蓄積量の比較(右)
近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)農業生産科学専攻博士後期課程3年ナディア シャフィラ ポハン、同博士前期課程2年 吉川恭平(研究当時)、同2年 畑夏紀、近畿大学農学部農業生産科学科4年 佐伯亮太(研究当時)、同准教授 小枝壮太らの研究グループは、農作物のウイルス病の原因となるベゴモウイルス※1 の新しい抵抗性遺伝子をナスから特定しました。
ベゴモウイルスには463もの種類があり、分類されている全植物ウイルスの約1/5を占めます。ナス、トマト、トウガラシ、キュウリ、メロン、カボチャ、ズッキーニ、オクラ、マメ類、イモ類、ワタなどの作物がこのウイルスに感染すると、農産物の収穫がほとんどできなくなるため、農業生産において世界的な脅威となっています。本研究では、ナスを用いてこれまでに報告のない遺伝子がウイルス抵抗性に関与することを初めて明らかにしました。本研究成果により、抵抗性を持つ個体を判別する手法も確立できたことから、今後、品種改良によってナス生産におけるウイルス病の被害が軽減できると期待されます。
本研究に関する論文が、令和7年(2025年)12月27日(土)に植物学分野の国際学術誌”Theoretical and Applied Genetics(セオレティカル アンド アプライド ジェネティクス)”にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
●農作物のウイルス病の原因の一つであるベゴモウイルスについて、新しい抵抗性遺伝子をナスから特定
●抵抗性を持つ個体を判別できるマーカーを開発し、抵抗性品種の改良が可能に
●本研究成果は、世界的に問題になっているナスのウイルス被害と、農薬の過剰投与を防ぐことに貢献
【本件の背景】
農業生産において、ベゴモウイルスが世界中で引き起こしている経済的被害は甚大で、解決が強く求められています。ウイルスの感染は、タバココナジラミとよばれる昆虫により媒介されて広まるため、生産現場では従来殺虫剤の散布によって対策してきました。しかし、過剰な農薬の使用により、現在では農薬が十分に効かないタバココナジラミが世界各地で発生しています。そのため、農業の現場ではウイルス抵抗性の品種改良が最も求められていますが、成功事例は一部の作物に限られています。野菜の中でもトマト、トウガラシ、キュウリ、メロンなどでは近畿大学の研究グループによる報告をはじめ、複数の先行研究でベゴモウイルス抵抗性遺伝子が特定されていますが、ナスについてはアジア、アフリカなどで近年被害が拡大しているにも関わらず研究が遅れており、ウイルス抵抗性遺伝子の特定が強く望まれていました。
【本件の内容】
研究グループは先行研究において、東南アジアで広く感染が拡大しているベゴモウイルス種である「tomato yellow leaf curl Kanchanaburi virus(TYLCKaV)※2」を単離して、ナスやトマトなどへの効率的なウイルス接種法を確立しました。また、先行研究ではジーンバンクに種子が保存されている736系統のナスの中で、33系統がウイルス抵抗性を持つことを明らかにしました。
今回の研究では、抵抗性系統のうちの一つについて、ウイルス抵抗性を遺伝子レベルで解析することで、これまで報告例のない原因遺伝子を特定しました。また、その遺伝子の存在によりナスがウイルス抵抗性を獲得していることも明らかにしました。さらに、ウイルスに弱い従来のナスと、ウイルス抵抗性を示すナスが持つ遺伝子のDNA配列を比較することで両者の違いを発見し、その差異を判別するマーカーを開発することで、ウイルス抵抗性の個体を確実に判別する手法を確立しました。
【論文掲載】
掲載誌:Theoretical and Applied Genetics(インパクトファクター:4.2@2024)
論文名:Ey-1 encodes a DEDDh exonuclease in eggplant (Solanum melongena),
providing a novel pathway for begomovirus resistance
(DEDDh型エキソヌクレアーゼをコードするナスのEy-1遺伝子は
ベゴモウイルス抵抗性に新たなアプローチを提供する)
著者 :ナディア シャフィラ ポハン1、吉川恭平1、畑夏紀1、佐伯亮太2、永野惇3,4、
益子嵩章5、小枝壮太1,2,*
*責任著者
所属 :1 近畿大学大学院農学研究科
2 近畿大学農学部
3 名古屋大学生物機能開発利用研究センター
4 慶應義塾大学先端生命科学研究所
5 タキイ種苗株式会社
URL :https://doi.org/10.1007/s00122-025-05120-6
DOI :10.1007/s00122-025-05120-6
【本件の詳細】
今回の研究では、ベゴモウイルス種であるTYLCKaVに対して抵抗性を示すナスの系統であるNo.820を研究に用いました。No.820が持つ抵抗性遺伝子を特定するために、No.820と、ウイルスに感染すると発病する感受性系統であるNo.47を交配して、その孫世代である交雑F2集団を準備しました。この交雑F2集団を用いて、RAD-seq解析※3 による連鎖解析※4 を行ったところ、ナスの第1染色体に抵抗性に関わる遺伝子座を特定しました。さらに、遺伝解析を進めることで、第1染色体の候補領域を113kb(キロベース:DNAの塩基1個を1bと表記する)まで絞り込みました。
候補領域を詳しく調べた結果、そこには10個の遺伝子が存在し、遺伝子の配列と発現量の調査から、「DEDDh exonuclease(SmNEN3)」を含む5つを抵抗性候補遺伝子として絞り込みました。今回の候補5遺伝子はいずれもウイルス抵抗性に関与することが報告されていない遺伝子だったことから、5つの遺伝子全てについて調査を行いました。
TYLCKaV抵抗性にSmNEN3が関与していることと、他の候補遺伝子が関与していないことを実証するために、ベゴモウイルスに強いナスNo.820において、ウイルス誘導性ジーンサイレンシング※5 により候補遺伝子の発現を抑制し、さらにベゴモウイルスを感染させたところ、SmNEN3の遺伝子発現を抑制した場合にのみ、ナスがベゴモウイルスに対して感受性になることがわかりました。これらの結果から、ナスはSmNEN3の働きによりTYLCKaV抵抗性を獲得していることが示されました。
SmNEN3は、「DEDDh型エキソヌクレアーゼ」という核酸を分解する遺伝子をコードしており、この遺伝子はシロイヌナズナをはじめ、いくつかの動植物で発見されている遺伝子です。しかし、すでにDEDDh型エキソヌクレアーゼが発見されている動植物で、今回のようにウイルス抵抗性を示した報告はなく、本研究がはじめてです。研究グループは、SmNEN3のDNA配列を詳細に比較することで違いを発見し、ベゴモウイルス抵抗性を付与するEy-1と感受性のey-1の遺伝子配列内にある違いを目印にしたDNAマーカーを開発し、TYLCKaV抵抗性の個体を確実に判別する手法も確立しました。
【研究者のコメント】
小枝壮太(コエダソウタ)
所属 :近畿大学農学部農業生産科学科
近畿大学大学院農学研究科
職位 :准教授
学位 :博士(農学)
コメント:私たちの研究グループでは、トウガラシ、キュウリなどで初めてベゴモウイルス抵抗性遺伝子を特定し、実用化も含めて世界をリードしています。本研究では、研究が遅れているナスを用いることで、既知の抵抗性遺伝子とは全く異なる新しい抵抗性遺伝子を幸運にも特定することができました。これを可能にしたのは先駆者たちが貴重なナス数百系統を各国から収集してジーンバンクに保存していたこと、本学修了生たちが非常に良いウイルス接種法を開発して抵抗性系統の選抜に成功したこと、民間企業との共同研究によって研究スピードが加速したことなど、多くの人たちの地道な努力の積み重ねの上に初めて達成できた成果です。オールジャパンで世界の基礎・応用研究者、産業界を驚かせる成果を発信できることを誇りに感じつつ、是非とも農業の現場で役に立つまで未来の学生たちと研究を継続したいと思っています。
【研究支援】
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究B(19H02950、23K26900)および国際共同研究加速基金(21KK0109)(研究代表者:小枝壮太)の支援を一部受けて実施しました。
【用語解説】
※1 ベゴモウイルス:一本鎖環状DNAをゲノムに持つウイルスで、世界各地での農業生産に大きな経済的被害を与えているウイルス属。
※2 tomato yellow leaf curl Kanchanaburi virus(TYLCKaV):タイのカンチャナブリ県で初めて単離されたベゴモウイルスであり、現在は東南アジア全域に分布を拡大している。主にナス科のトマト、ナス、トウガラシなどに被害を与えている。今回はTYLCKaVをモデルウイルスとすることで研究を行った。
※3 RAD-seq解析:制限酵素で切断したゲノムDNAの末端にアダプターを付加し、その塩基配列を高速シーケンサーで読み取ることにより、ゲノム全域に渡る遺伝子変異を分析する技術。
※4 連鎖解析:生物が持つ特徴とDNAの塩基の違いを調べ、その相関関係から特徴を決めているDNAの塩基を絞り込む手法。
※5 ウイルス誘導性ジーンサイレンシング:ウイルス感染によって誘導されるRNAサイレンシング機構を利用した、植物の逆遺伝学的解析技術。任意の遺伝子配列の転写を抑制した場合の植物体の変化を調査できる。本研究ではタバコ茎えそウイルス(TRV)を実験に用いた。
【関連リンク】
農学部 農業生産科学科 准教授 小枝壮太(コエダソウタ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1360-koeda-sota.html
農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/
