サイバー攻撃が巧妙化し、ビジネスリスクが多様化する現代において、セキュリティはもはや企業の「守り」のコストとだけ捉える時代ではありません。むしろ、それは企業の信頼を築き、新たなビジネスチャンスを生み出す「攻め」の経営戦略へと進化しています。
そんな現代のセキュリティのあり方を示す羅針盤となるのが、先日渋谷で開催された「日本セキュリティ大賞2025 サミット&アワード」です。ここでは、優れたセキュリティガバナンスや人材育成、先進的な対策を実践する組織が表彰され、その知見が広く社会に共有されました。
日本セキュリティ大賞2025の概要
このアワードは、一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 セキュリティ部会が主催し、「日本全体のセキュリティレベル向上に貢献する」という目的を掲げています。単なる表彰式に留まらず、受賞者によるパネルディスカッションや最新ソリューションピッチも行われました。
当日の基調講演や受賞者によるパネルディスカッションの全セッションは、期間限定でアーカイブ配信されています。これは、最新のセキュリティ動向と実践事例を深く学ぶ機会となります。
* 視聴期間:2025年11月20日(木)~ 12月19日(金)
* 視聴方法:公式サイトの申込ページよりご登録ください。
* 詳細はこちら:https://security-awards.jp/summit.html
受賞組織の取り組み事例
厳正な審査を通過し、4部門13組の組織が受賞しました。それぞれの取り組みには、未来のセキュリティ戦略を考える上でのヒントが詰まっています。

1. セキュリティ運用支援部門
他社のセキュリティ強化に貢献する優れたサービスや事例が評価されました。
- 【大賞】NTTテクノクロス株式会社
- タイトル:「企業の“あらゆる特権”リスクゼロへの道筋」
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システム管理者の特別な権限である「特権」の複雑な管理を洗練された形で実現し、導入のしやすさも兼ね備えている点が、多くの企業にとって実用的なソリューションです。

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【優秀賞】セキュリティの信用評価プラットフォーム「Assured」
- タイトル:「Assured」が実現する、社会全体のセキュリティ水準向上とサプライチェーンリスク対策への貢献
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世界でも類を見ない「セキュリティの信用評価」という領域に切り込み、多くの知見を集約したプラットフォームを構築しています。現代のサプライチェーン攻撃リスクを考えると、社会全体のセキュリティレベル向上に大きく貢献する取り組みです。

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【優秀賞】Pipeline株式会社
- タイトル:「RiskSensor 日本全体のサイバーセキュリティ強化を実現するEASMプラットフォーム」
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プロフェッショナルな知見をAI技術に反映させる効率的かつ高度なアプローチです。国家レベルのセキュリティ基盤構築を目指す将来的な構想には、大きな期待が寄せられます。

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【奨励賞】脆弱性管理クラウド「yamory」
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ソフトウェアサプライチェーン全体の脆弱性管理という現代の企業が抱える課題に対し、自動検知から対応管理までを網羅し、運用負荷を大幅に軽減する実践的なアプローチです。

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【奨励賞】S&J株式会社
- ランサムウェア攻撃の主要ターゲットであるActive Directoryに特化し、独自開発のエージェントにより、コストパフォーマンス高く最悪の事態を回避するアプローチです。特定の脆弱性に焦点を当て、効果的な対策を講じる堅実な戦略です。

2. セキュリティ人材育成部門
セキュリティ人材の育成と組織全体の意識向上に貢献する先進的な取り組みが評価されました。
- 【大賞】東京電機大学 国際化サイバーセキュリティ学特別コース(CySec)
- タイトル:「実践・共創・継続的学びを重視した高度サイバーセキュリティ人材育成の取り組み」
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国際的なCBK(Common Body of Knowledge:共通知識体系)を基盤とした、体系的かつ「実践」を重視したカリキュラムです。500名以上の人材を輩出する実績は、現代社会が求める即戦力育成のモデルケースと言えます。

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【優秀賞】香川大学サイバー防犯ボランティアSETOKU
- タイトル:「産学官連携による実践的なサイバーセキュリティ教育プログラムの構築と展開」
- 産学官連携という強固なネットワークを活かし、地域の小学校17校で啓発活動を展開しています。子供たちの段階からセキュリティ意識を育む活動は、将来的な社会全体のセキュリティレベル向上に貢献する、社会的意義の大きい取り組みです。

3. セキュリティ対策・運用部門(行政機関)
優れたセキュリティ対策運用を実現している行政機関が評価されました。
- 【大賞】神奈川県横須賀市
- タイトル:「お悩み相談チャットボット “ニャンぺい”の公開実験」
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生成AIの導入を単なる効率化で終わらせず、「市民サービス向上」という基礎自治体として最も重要な観点まで昇華させています。市民と共に課題を検証する先駆的な取り組みとして、多くの自治体にとって参考になるモデルケースです。

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【優秀賞】広島県大崎上島町
- タイトル:「自治体のクラウドシフトとゼロトラスト」
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「島」という地理的な制約がある中で、職員が主体となってZTNA(Zero Trust Network Access)を中心としたゼロトラスト環境を構築しています。限られたリソースと特殊な環境で堅牢なセキュリティを構築するという、多くの自治体や企業が抱える課題に対する示唆に富んだ取り組みです。

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【奨励賞】舞鶴市
- 「日本一働きやすい市役所」を目指す中で、Google WorkspaceとChromebookを効果的に活用し、行政情報の安全性と職員の利便性(機動性)を見事に両立させています。これは、セキュリティと生産性の両立を求める現代の組織にとって、非常に参考になるアプローチです。

4. セキュリティ対策・運用部門(民間企業)
優れたセキュリティ対策運用を実現している民間企業が評価されました。
- 【大賞】ライフネット生命保険株式会社
- タイトル:「『全員主役』のセキュリティへ 〜全部門参加型CSIRTが起こす組織変革〜」
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「全社一丸でのセキュリティ」を、実務上の多くの困難を乗り越えて実現しています。セキュリティを単なるIT部門の責任ではなく、企業全体の「カルチャー」として組織に深く根付かせている姿勢は、現代の組織が目指すべき理想的な姿です。

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【優秀賞】太田油脂株式会社
- タイトル:「多角化リスク対応 ~三大リスク対応からDX推進、人材育成、地域貢献までを包括的に行う中小企業モデルへ~」
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社長の強力なリーダーシップのもと、サプライチェーン全体への配慮と、限りある資源の中で「教育」という最適な手段を見出しています。これは、特に中小企業にとって、効果的なセキュリティ対策を講じる上で示唆に富むモデルケースです。培ったノウハウを地域社会に還元する姿勢も、企業価値を高める優れた取り組みです。

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【奨励賞】パーソルホールディングス株式会社
- 7.8万人を超える大規模グループにおいてSOC(Security Operation Center)を再編し、横断的な検知・対応体制を構築しています。AI活用やKPI可視化により初動対応時間を大幅に短縮するなど、その実効性とROI(投資対効果)への明確な意識は、大規模組織におけるセキュリティ運用の模範となるでしょう。

主催者からのメッセージ:セキュリティ投資とビジネス成長
一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会の代表理事である森戸 裕一氏は、今回の授賞式において「『日本セキュリティ大賞』は、セキュリティ投資を、民間企業においてはビジネスの成長に、自治体においては住民の安心感にいかに繋げていくか、という視点を重視しています」と語りました。

この言葉は、これからのセキュリティ戦略の核心を突いています。単にシステムを守るだけでなく、それがどのように企業価値を高め、社会貢献に繋がるのか。その視点を持つことが、現代そして未来のリーダーに求められています。
まとめ:未来のセキュリティ戦略の再考
「日本セキュリティ大賞2025」は、日本のセキュリティレベルを一段引き上げるための貴重な知見が集結したイベントでした。受賞した各組織の先進的な取り組みは、私たちに「セキュリティとは何か」「どうあるべきか」を改めて問いかけてくれます。
あなたの組織は、セキュリティを「守り」のコストと捉えていませんか?それとも、未来を切り拓く「攻め」の武器として捉え、積極的に投資し、活用していますか?
このアワードで共有された事例を参考に、ぜひあなたの組織のセキュリティ戦略を見直してみてはいかがでしょうか。アーカイブ視聴を活用すれば、最前線の知見をじっくりと学ぶことができます。
日本セキュリティ大賞2025 公式サイト:https://security-awards.jp/
