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図1. ゴルジ体で起こるグルコマンナン合成反応 原料物質合成酵素であるVTC1・KJC1や糖転移酵素であるCslAに加えて、分解酵素であるMANが関わる。
【ポイント】
●植物が光合成により同化した炭素の大半は細胞壁に蓄積しており、その主成分はセルロースやキシラン、グルコマンナンなどの多糖類です。
●グルコマンナンの合成には、原料物質の合成酵素や糖を連結する糖転移酵素が関わりますが、今回の研究で、分解酵素であるマンナナーゼも関わることがわかりました。
●このマンナナーゼを欠損すると細胞壁のグルコマンナン量が激減することから、グルコマンナン合成の一連の反応には、「未知」の分解反応も含まれることがわかりました。
【概要】
埼玉大学大学院理工学研究科の博士前期課程 菊地愛菜さん(当時の所属)、同 佐藤恵里子さん、高橋大輔准教授、小竹敬久教授らと、近畿大学生物理工学部の吉見圭永講師、ケンブリッジ大学生化学科のPaul Dupree教授のグループは、植物細胞壁の多糖類であるグルコマンナン合成に、分解酵素であるマンナナーゼ(MAN)が必要であることを明らかにしました(図1)。
本成果は2026年4月20日(アメリカ東部時間)に米国植物科学会の学術誌「Plant Physiology」にオンライン掲載されました。
【研究の背景】
地球上のバイオマス炭素※1 の80%以上は植物が占めていますが、その炭素の大半は植物細胞壁の多糖類として存在しています。植物が光合成で同化した炭素はスクロース(砂糖)やデンプンにもなりますが、大半はセルロースやキシラン、グルコマンナン※2 といった細胞壁の多糖類として蓄積します。グルコマンナンやキシランは水素結合や疎水的相互作用により凝集しやすく、植物細胞内でこれらの多糖類がどのように効率的に合成されているのかは依然として不明です。
グルコマンナンを分解する酵素であるマンナナーゼ※3 には、タンパク質のN-末端に分泌シグナルをもつ細胞壁分泌タイプの他に、N-末端に膜貫通領域をもつ非典型タイプの分子種が存在します。非典型タイプのうち、ゴルジ体に局在するタイプは種子植物で広く保存されているため、分泌タイプとは異なる役割を持つことが推測されていました(図2)。

図2. ゴルジ体局在タイプのマンナナーゼ シロイヌナズナだけではなく、ミヤコグサ(マメ科、Lj2-1、Lj2-4)やイネ(イネ科、Os2、Os6)、基部被子植物であるアンボレラ(アンボレラ科、Amt2、Amt6-3)にもゴルジ体局在タイプのマンナナーゼ遺伝子が存在する。
【研究内容】
非典型タイプのマンナナーゼであるMAN2とMAN5の両方を欠損したシロイヌナズナ※4 のman2 man5二重変異体の茎から横断切片を作成し、特異的な抗体を用いてグルコマンナンを染色したところ、二重変異体では細胞壁のグルコマンナンがほとんど失われていることがわかりました。また、細胞壁の成分を可溶性画分、アルカリで抽出される画分(アルカリ画分)、残渣の不溶性画分に分画し、それぞれの構成糖を調べたところ、いずれの画分においてもグルコマンナンに由来するマンノース※5 の量が著しく減少していることが確認されました(図3)。さらに、免疫電子顕微鏡観察を行ったところ、抗体で染色して観察した場合と同様に、man2 man5二重変異体では細胞壁中のグルコマンナンがほとんど失われていることが確認されました(図4)。

図3. man2 man5二重変異体におけるグルコマンナンの減少 左の写真は野生型植物とman2 man5二重変異体の茎のグルコマンナンを染色したものである。スケールバーは100µmを表す。右は細胞壁を分画して構成糖中のマンノース含量を調べたもので、可溶性画分、アルカリ画分、不溶性画分いずれもマンノース含量が顕著に低下していた。なお、細胞壁のマンノースの大半はグルコマンナンとして存在している。

図4. 細胞壁グルコマンナンの免疫電子顕微鏡観察 グルコマンナン特異的な抗体で検出し、細胞壁のグルコマンナンは青色、細胞内のグルコマンナンはピンク色のドットで表している。CP, 葉緑体;CW, 細胞壁;V, 液胞。スケールバーは1µmを表す。
MAN2やMAN5の機能に、マンナナーゼの分解活性が不可欠であるかについても調べました。man2 man5二重変異体に、活性部位※6 に変異をもつMAN2遺伝子やMAN5遺伝子を導入しましたが、細胞壁のグルコマンナンの減少は回復しませんでした。一方で、正常なMAN2遺伝子やMAN5遺伝子を導入すると回復しました。これらの結果は、MANは合成途上のグルコマンナンに単に結合しているのではなく、ゴルジ体の中で加水分解反応を行っていることを示唆しています(図5)。現段階でMAN2やMAN5の役割は特定できていませんが、これらのMANは、合成時のグルコマンナンの凝集を防ぎ、正常な糖鎖合成の維持に関与していることが予想されます。

図5. MAN遺伝子導入による細胞壁グルコマンナンの回復 man2 man5二重変異体に、活性部位に変異を導入したMAN遺伝子や正常型のMAN遺伝子を導入し、茎のグルコマンナン蓄積の回復を評価した(上段)。スケールバーは50μmを表す。横断切片の面積に占める染色された領域の面積を比較した(下段)。
【今後の展開】
本研究では、分解酵素であるマンナナーゼが種子植物のグルコマンナン合成に関わることが明らかになりました。一方で、コケ植物はマンナン多糖類※7 を合成するにもかかわらず、ゴルジ体局在タイプのマンナナーゼ遺伝子を持っていません。このことは、種子植物のマンナン多糖類の合成でのみ、マンナナーゼによる加水分解反応が重要であることを示唆しています。種子植物には、細胞壁にマンナン多糖類を多量に蓄積するものがあります。今後は、マンナン多糖類の合成に関わる他の因子も同定し、凝集しやすいマンナン多糖類を効率的に合成する仕組みを明らかにしていきます。これら一連の研究は、食物繊維であるグルコマンナンを高蓄積する植物の開発にもつながると期待されます。
【原論文情報】
掲載誌:Plant Physiology
論文名:Atypical endo-β-1,4-mannanases are necessary for normal glucomannan
synthesis in Arabidopsis
著者名:Aina Kikuchi, Eriko Sato, Yoshihisa Yoshimi, Hironori Takasaki, Naho Nishigaki,
Kimie Atsuzawa,Yasuko Kaneko, Masatoshi Yamaguchi,
Daisuke Takahashi, Paul Dupree, and Toshihisa Kotake
DOI :10.1093/plphys/kiag174
URL :https://doi.org/10.1093/plphys/kiag174
【研究支援】
本研究は、日本学術振興会科研費(18H05495、23H02134、23H04302、23K05144、24KK0273)、Broodbank Research Fellowship(PD16178)、ERC Advanced Grant EVOCATE(EP/X027120/1)、OpenPlant(UKRI BBSRC, BB/L014130/1)の支援を受けて行われました。
本研究における免疫電子顕微鏡観察は、埼玉大学科学分析支援センターの依頼分析を通じて透過型電子顕微鏡 H-7500(日立)を使用して行われました。
【用語解説】
※1. バイオマス炭素
植物や動物、微生物などの生物に含まれる炭素や、これらの生物に由来する炭素を意味します。これらの炭素は光合成により二酸化炭素から固定された炭素に由来するため、再生可能な資源であると考えられています。
※2. グルコマンナン
グルコース(ブドウ糖)やマンノースがβ-1,4-結合により連結した多糖類で、多くの陸上植物の細胞壁にみられます。
※3. マンナナーゼ
グルコマンナンを特異的に切断する酵素。
※4. シロイヌナズナ
ゲノムサイズが小さく、特定の遺伝子の機能を欠損した変異体などを利用しやすい、アブラナ科植物のモデル植物です。
※5. マンノース
グルコースやガラクトースなどとは異なる単糖です。シロイヌナズナではグルコマンナン以外にマンノースを多く含む多糖類がないため、細胞壁構成糖のマンノースの大半はグルコマンナンに由来します。
※6. 活性部位
酵素には反応に重要なアミノ酸残基があり、これらの残基を別のアミノ酸残基に置き換えると活性が著しく損なわれます。
※7. マンナン多糖類
陸上植物には「グルコマンナン」に加えて、マンノースのみから成る「ホモマンナン」、ホモマンナンにガラクトース側鎖が結合した「ガラクトマンナン」、グルコマンナンにガラクトース側鎖が結合した「ガラクトグルコマンナン」があり、これらはマンナン多糖類と呼ばれます。
【関連リンク】
生物理工学部 食品安全工学科 講師 吉見圭永(ヨシミヨシヒサ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/3233-yoshimi-yoshihisa.html
生物理工学部
https://www.kindai.ac.jp/bost/
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