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HPVワクチン男女接種の重要性を発信する高校生(AIイメージ)
近畿大学奈良病院(奈良県生駒市)産科婦人科学教室助教 城玲央奈、近畿大学医学部(大阪府堺市)微生物学教室主任教授 角田郁生らの研究グループは、ヒトパピローマウイルス(以下、HPV)※1 ワクチンに関する研究で、「副反応」仮説の根拠とされてきた基礎研究データを反証するとともに、接種機会の拡大につながる単回接種の有効性を検証し、HPV根絶に向けた新たなワクチン戦略の重要性を示しました。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)3月30日(月)に、国際病態生理学会が発行する学術誌”Pathophysiology(パソフィジオロジー)”にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
●複数回の接種が一般的であるHPVワクチン※2 について、単回接種の有効性と安全性を検証
●単回接種は、HPVに対する免疫を十分に誘導しながら、過剰な炎症反応を伴いにくい可能性を確認
●HPV根絶に向けた接種率向上と、男女を対象とした接種戦略推進に貢献する研究成果
【本件の背景】
HPVは、子宮頸がんの原因となるほか、肛門がんや中咽頭がんなどの発症にも関与しています。ヒトのみに感染するため、ワクチン接種の普及により根絶が可能なウイルスと考えられています。HPVワクチンは、初回の性行為の前に接種することで感染を防ぎ、前がん病変や子宮頸がんの予防につながります。また、接種者が増えることでHPVの感染拡大が抑えられ、未接種者にも感染が広がりにくくなることが期待されます。
日本では、平成25年(2013年)4月に小学校6年生から高校1年生の女子を対象として、HPVワクチンが定期接種化されました。しかし、HPVワクチン接種後に精神神経症状などの「多様な症状」がワクチンの「副反応」として発生する見方が広がり、同年6月に積極的接種勧奨が差し控えられたことで、接種率は大きく低下しました。令和4年(2022年)4月に勧奨は再開されたものの、不安はなお根強く、日本の接種率は国際的に見ても低水準にとどまっています。
一方、海外ではHPVワクチンによる子宮頸がん予防効果が次々と示されるとともに、従来は2~3回接種が一般的だった中、近年は接種機会の拡大や国・地域間の格差縮小の観点から、単回接種に関する知見も蓄積されています。さらに、HPVは男性にも関連する中咽頭がんや肛門がん、陰茎がんの原因となるため、接種対象を女性だけでなく男性にも広げることは、感染拡大の抑制にも重要です。そのため、本研究では「副反応」仮説の根拠を体系的に再検討するとともに、単回接種の有効性と安全性をマウスを用いた実験で検証しました。
【本件の内容】
本研究では、HPVワクチンの単回接種の有効性と安全性を評価するため、マウスを用いた実験を行いました。HPVワクチンは、HPVの成分の投与により体内で抗体を作らせて感染を防ぐ一方、接種に伴う免疫反応では、サイトカイン※3 と呼ばれる炎症関連物質が産生され、接種部位の腫れや発赤、発熱などにつながる可能性があります。そこで本研究では、単回接種によって十分な抗体が産生されるか、またサイトカインの上昇が過剰にならないかを検証しました。
具体的には、マウスにHPVワクチンを投与し、接種後の血中HPV抗体濃度と13種類の血中サイトカイン濃度を時間経過に沿って測定しました。その結果、HPV抗体濃度は接種後に上昇し、長期間にわたって高く維持されることが確認されました。一方、13種類のサイトカインは、一部に軽度の上昇がみられたものの、いずれも一時的であり、過剰な炎症反応は持続しないことが明らかになりました。これらの結果から、HPVワクチンの単回接種は、HPVに対する免疫を十分に誘導しながら過剰な炎症反応を伴いにくい接種法である可能性が示されました。本研究成果は、HPVワクチンの単回接種の推進に加え、男女を対象とした接種戦略の重要性や、「副反応」に関する誤った情報の是正を通じて、HPV感染の拡大抑制と根絶に向けた取り組みに役立つと期待されます。
【論文掲載】
掲載誌:Pathophysiology(インパクトファクター:2.6@2024)
論文名:Towards Global HPV Eradication: Single-Dose HPV Vaccination vs. Pseudosciene
(地上からのHPV根絶に向けて:HPVワクチン単回接種 vs. 疑似科学)
著者 :城玲央奈1、角田郁生2
所属 :1 近畿大学医学部産科婦人科学教室、2 近畿大学医学部微生物学教室
URL :https://www.mdpi.com/1873-149X/33/2/25
DOI :10.3390/pathophysiology33020025
【本件の詳細】
HPVはヒトにしか感染しないため、適切な対策により世界的な根絶を目指しうるウイルスです。これまでに天然痘と牛疫の原因となる2つのウイルスが、ワクチンによって地上から根絶されており、HPVについてもワクチンの普及が進めば根絶可能性があると考えられています。一方で、ワクチンに関する誤った情報は接種率の低下を招き、子宮頸がんの予防を妨げる要因となっています。
HPVワクチンは、初回の性行為の前に接種することでウイルス感染を防ぎ、前がん病変や子宮頸がんを減らす効果があります。また、接種者だけでなく未接種者にも感染が広がりにくくなる「集団免疫」の効果も期待されます。従来、HPVワクチンは2~3回接種が一般的でしたが、近年では1回の接種でも有効性が示されており、接種機会の拡大や国際的な格差の縮小につながると期待されています。さらに、女性だけでなく男性にも接種を広げることで、HPV感染に関連するがんの予防効果も期待されます。
研究グループは、マウスを用いて二価HPVワクチンと四価HPVワクチンの単回接種の有効性と安全性を検証しました。その結果、1回の接種でもHPV抗体は接種2週間後から検出され、少なくとも観察終了時点まで維持されることが確認されました。また、血液中の炎症関連物質であるサイトカインを測定したところ、炎症反応は一時的で持続しないことが示されました。これらの結果は、単回接種有効性と安全性が期待されることを支持するものです。
一方、HPVワクチンの「副反応」に関する科学的根拠の乏しい情報が広まっていることも問題となっています。これは、HPVワクチンによって「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)」と呼ばれる新たな自己免疫病※4 が引き起こされるとするもので、その根拠として、分子相同性仮説※5、アジュバント仮説※6、動物モデル※7 が提唱されてきました。しかし、これらの主張は科学的根拠に乏しく、再現性にも課題があることが報告されています。こうした情報はワクチンへの不安を招き、接種率の低下につながっています。特に日本では、過去の「副反応」報道の影響により、ワクチン接種が十分に進んでいない状況が続いています。HPVの根絶に向けては、単回接種や男女を対象とした接種戦略の推進に加え、科学的根拠に基づく正確な情報発信が重要です。本研究は、HPVワクチンの新たな接種戦略の可能性を示すとともに、接種に関する科学的理解の促進に寄与することが期待されます。
【研究者のコメント】
角田郁生(ツノダイクオ)
所属 :近畿大学医学部微生物学教室
職位 :主任教授
学位 :博士(医学)
コメント:本論文では、まず、ワクチンの普及でHPVは地上から根絶可能であることを天然痘ウイルスと牛疫ウイルスの根絶の例から解説しています。次に、ワクチン「副反応」仮説を反証すると共に、「副反応」症例が自己免疫病の診断指針を満たさないことを紹介し、ワクチン接種に伴う不安が解消される内容としました。最後に、これまでの疫学調査をサポートする研究として、当研究グループのHPVワクチン単回接種の有効性と安全性の実験データを示しました。ワクチンの男女単回接種と疑似科学の否定が両輪となれば、HPVひいては子宮頸がんを含む関連がんの地上からの根絶が実現できると信じております。
【用語解説】
※1 ヒトパピローマウイルス(HPV):主に性的接触によって感染するウイルス。多くの感染は自然に排除されるが、一部のハイリスク型HPVは感染が持続することで、子宮頸がんのほか、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなどの原因となる。ヒトのみに感染するため、ワクチン接種の普及により根絶が期待されている。
※2 HPVワクチン:ヒトパピローマウイルス(HPV)は、性交渉歴のある女性であれば8割以上が生涯で一度は感染すると言われている。HPVのうち、16型と18型を代表とするハイリスク型のHPVの感染は、子宮頸がんだけでなく、中咽頭がん、肛門がん、外陰がん、腟がんなどを引き起こす。日本では現在、二価HPVワクチン、四価HPVワクチン、九価HPVワクチンが認可されている。
※3 サイトカイン:主に免疫細胞によって作られる物質で、免疫反応や炎症反応を誘導・制御する。
※4 自己免疫病:免疫は本来、病原体を攻撃し排除する働きを持つが、免疫の構成成分である抗体やリンパ球が、自分の細胞や組織を攻撃・破壊するために起こる病気。HPVによる副反応が、新しい自己免疫病HANSを起こすと、一部の医師・研究者により提唱された。
※5 分子相同性仮説:HPVワクチンによって作られた抗体が、体内の正常な成分にも反応し、自己免疫的な異常を引き起こすとする考え方。
※6 アジュバント仮説:アジュバントは免疫賦活剤で、ワクチンに加えることで免疫反応を高め、ウイルスに対する抗体反応を強める成分です。多くのワクチンではアルミニウム塩が用いられています。アジュバント仮説は、こうした成分が過剰または異常な免疫反応を引き起こす可能性があるとする考え方です。
※7 動物モデル:一部の研究グループが動物実験でHPVワクチン接種後の症状が再現された(動物モデルの確立)と論文発表したが、後に、同論文は雑誌社により撤回。
【関連リンク】
医学部 医学科 教授 角田郁生(ツノダイクオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1503-tsunoda-ikuo.html
医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/
奈良病院
https://www.med.kindai.ac.jp/nara/
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